桐生に来たばかりの頃、私は右も左もわからないまま、機屋さんの扉をノックしました。
知り合いもいない土地で、いきなり「働かせてください」と飛び込んでいくだなんて、今思えば無謀だったかもしれません。
そんな私を受け入れてくださった方々のおかげで、私は少しずつ産地に溶け込んでいきました。
何気ない一言に、はっとする
ある日勤務している際、工場の方が糸を手に取りながらこう言いました。
「こんな細い糸も、集まれば丈夫な布になるんだよ」

その言葉は、ただの説明のようでいて、胸に深く残りました。
生地づくりも服づくりも、そして私自身の価値観もまた、小さな積み重ねがいつしか大きな形になる。
それを毎日の仕事の中で自然に体現している姿が、とてもまぶしかったのです。
「布には人が映る」という気づき
別の日には、織り機を調整している職人さんがこんな話をしてくれました。
「同じ設計図でも、人によって布の仕上がりが変わるんだよ」

だからこそ私は、布から服を考えることに惹かれるのかもしれません。
その背後には、確かに人がいて、土地があって、日々の営みが息づいているから。
産地と一緒に、歩み続けたい
桐生で過ごす中で、「服はデザイナーひとりでつくるものではない」と強く実感するようになりました。
糸を紡ぐ人、布を織る人、染める人。
たくさんの手と心が重なって、ようやく一着の服が生まれます。
その現実に触れてからは、私自身の服づくりの姿勢も変わりました。
ブランド「masoom」は、ただ自分の表現を届けるだけでなく、産地と一緒に未来へつなげていく存在でありたいと思っています。
最後に
今、私が桐生で服をつくれているのは、出会った人たちのおかげです。
あの頃の私のように、何かに迷っている誰かが、産地の温度や人の言葉に触れて少しでも勇気を持てたら──。
そんな願いも込めて、これからもここで、服をつくり続けていきます。